windowの図書館外伝

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KR EP:PARALLEL incident:102-i KaSOの火葬場へようこそ!

 

これは異暦102年にあったかもしれないし、なかったかもしれない物語。

 

 

「どうしよう!あの有名なアニソン歌手KaSOのライブチケット貰っちゃった!3枚も!」

 

サナは何故かこの世界で漫画家になった。皆様ご存知の通り、KRの傭兵業とかけ持ちしながら2週間に1度の連載をしている。ちなみにまだ休載は1度もない。

今年で『魔法少女☆マジかるリュヌ☽』は連載5年目に突入し、何とアニメ化が決まったのだ。まさに『異世界転移したら魔法少女漫画家デビューした上にアニメ化決定した件について』というタイトルが付きそうな状態だ。

そしてこのライブチケットをくれた歌手は、サナの作品の主題歌を歌うことになった人気アニソン歌手KaSOだという。サナは原作者特権で彼女のライブのチケットを手に入れたのだ。

 

「…Huh?何故そんな話をオレに?おめでたい話なら可愛い可愛いイクスやお前の姉、そしてあの黒猫に語ればいいじゃないか!」

「貴方…知らないの?KaSOのこと。」

「あいにくだがオレは自分が死ぬ事と、イクスにお菓子をあげる事以外に関心は無い。」

テリナ支部の同僚で、同じ世紀末地球から来たジョージ。彼は興味無さそうにあっけらかんと言い放つ。

しかし間髪入れずにサナは発言を続ける…オタク特有の早口で。

「彼女の所属事務所はVICE…それも大量虐殺することで有名な葬の派閥の幹部よ!」

そうKaSOはVICEであることを堂々と公言して歌手活動を行っている…そしてVICEであるということは…

「Really?思いっきりオレたちKRの敵じゃねーか!そんなチケット破り捨てちまえ!」

当たり前だ。KR団員としてVICEの活動を許す訳にはいかない。

「彼女のライブに参加すれば本当に天に昇れるとの評判。」

「…!!」

「彼女は自身のファンに対して歌って踊って燃やし尽くすのよ!それが彼女なりのファンサービスだって…『火葬』の異名は伊達じゃないわね…。」

「つまり…彼女のライブに参加すれば…」

「素敵な音楽に囲まれて…熱々の炎に包まれて…」

「死ねる!!!!」

死にたがり屋のジョージの異名は伊達じゃない。こうしてKaSOのライブの参加者にジョージが加わった。

 

 

「あと1枚あまってるのよねぇ…ライブのチケット。」

サナは考えた、危険な火遊びに参加してくれそうな知り合い。義姉の楓は…絶対止めてくるので却下。ジジも…絶対止めてくるから却下。シェルトは…VICEのライブとイカれた彼女…うん台無しになる論外。チノも論外。イクスは…うーん巻き込みたくないなあ。

世の中そうそう死にたがり屋なんて存在しない。まぁいつも通り、喫茶店でこき使われてる可哀想なあいつを連れていこう。

でも火葬とか彼の宗教的に怪しいし、そもそもこのライブに行くこと自体自サツ行為でNGな気がするが…まあなんか適当に説得してみるか。私〈言いくるめ〉や〈説得〉に技能振ってるタイプの探索者だから。

茶店でこき使われてるあいつ「えっ!聖歌を聞きながら死ねるだって?!サイコーじゃねーか!」

 

〈言いくるめ〉と〈説得〉には成功した。しかし、アニソンが聖歌…なんだかとんでもない誤解をさせてしまったが、まぁファンにとって好きな歌手の歌は聖歌だからいいか。

 同じ世紀末地球から来たトーマスも乗り気なようで、死にたがりなライブ参加者はこれで3人揃ってしまった。…誰か彼女達を止めてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

ライブ当日

なんだか蒸し暑いお天気。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこの長蛇の列!」

 トーマスは驚嘆した。

「あーあれはライブの物販の列ね。」

ライブ会場の入口横はKaSOのライブグッズを求めるファンで溢れかえっていた。

「グッズ販売の最後尾はこちらです!」

「入場はまもなく開始いたします!」

「本日こちらの水を無料配布しています!」

葬の派閥員らしきスタッフ達が行列を誘導し、ペットボトルの水を無料配布をしていた。

 

「水…無料配布…使えるわね。」

「What?グッズ?これから燃え尽きるって言うのに呑気な奴らだな。」

「お主たちはKaSO様のライブをわかってないでござるね!もしや新規の荼毘メンでござるか?」

突然謎の竜人がサナ達に話しかけてきた。

「Da…ダビメン?」

「誰だてめぇ!」

「(うわっ誰かわからないけど厄介なファンに違いない…。)」

見た目がコテコテのオタクな為、彼のことはオタクのドラゴン…通称オタドラとサナは心の中で呼ぶことにした。

「荼毘メンとは我々のようなKaSO様のファンのことでござる!」

「そしてライブでKaSO様にエールを送ったり、注目されるためにもグッズも大事でござるよ!」

「別にそんな悪目立ちしたくねーよ!」

「That’s right!大人しく燃え尽きるに限る。」      

しかしそんな否定的な両者に対し、オタドラはグッズのプレゼンを開始。

「例えばこの光り輝くペンライト!これを使えばKaSO様の目に止まってより燃やし尽くして貰えるでござる!」

「…何!!それなら買う…!これで死にやすくなる!」

「あぁなるほどなあ…!てめぇトカゲの癖に賢いな…じゃあ買うか!」

2人はまんまとオタドラの宣伝文句に乗せられ、長蛇の列の一員となった。

 

「で…貴方は並ばないの?だいたいこういうのって今回のライブ限りのグッズでしょ?」

「事前販売で既に入手済みでござる。なんと言っても吾輩は古参の荼毘メン!ファンクラブの番号も1桁!毎回ライブは現地参戦!KaSO様のことならなんでも知ってるでござる。」

サナは思った…こんな確実に死ねるライブに古参という概念があるんだ…と。

「ところでお主はグッズ買わないのでござるか?」

「私はこのKaSOちゃん概念コーデ1本でいく!(キリッ)」

「そうでござるか!吾輩も早くKaSO様に燃やし尽くして貰いたいでござる!では新規の荼毘メンの方!ライブ終わりのあの世で会おうでござる!」

オタドラはそう言って去っていった。

「…待てよ。そうかあいつ…ドラゴンだから炎で死ねないのか!可哀想に…。」

こうしてサナはオタドラを見送り、1度水の補給エリアに向かった後、オタク装備に身を包んだ2人と合流し、会場入りして席につくのであった。

 

 

「いよいよだな!」

「Yes!」

待ち望んだ死を目の前にした2人はとても輝いた目をしている。

ジョージは死んだ妻と子のところに行きたいから死にたい。トーマスは死んだ親友のいる天に行きたいから死にたい。そしてサナは罪深い自身を罰するために地獄に行きたいから死にたい。死にたい思いは同じだが、その先に対する思いは三者三葉…いや三者三様である。

それはここにいるファン達もそうである。

「生のKaSO様の歌声を聞けるなんて!」

「ほんと抽選当たって良かったあ!KaSO様たくさんライブしてくれるけど早く死にたいから!」

「KaSO様の歌を聴きながら死ねる!」

KaSOのライブに集まるファンこと荼毘メンは、この世に絶望し死を志願するものばかり。KaSOはそんな荼毘メンをこの世から解放するために葬の派閥の幹部となったのだ。

他のVICEや悪党に無惨に殺されるくらいなら、彼女の歌声に包まれ焼け死ぬ方が幸せだからだ。

「うぉぉKaSO様!今日も生き延びて次のライブにも参戦するぞ!」

一方でKaSOのファンでありながらも、死にたくはない…でもライブは行きたい!という健全なバカファンもいる。

 

「さて私も飲もっと…。」

サナは懐からペットボトルを取り出した。

「何飲んでんだ?さっき貰った水か?」

「いいえ。ベルベット達魔法使いに頼んで作ってもらった魔法の耐火ポーション。」

「Why?なんで死にたがりなお前がそんなものを…。」

「この世に未練でもできたか?」

死にたいはずのサナの奇行に2人は疑問符を浮かべる。

「この魔法の耐火ポーション。耐久時間をライブが終わるか終わらないかの時間ギリギリに設定してもらったの。ライブの途中で死ぬのは嫌…せっかく死ぬならオタクとして全曲聞き終わってから死にたい!」

「なるほど。」

「おめぇギャンブラー嫌いなくせに、やってることはギャンブラーじゃねえか!」

めんどくさいオタクの流儀があるようだ。

 

 

 

いよいよKaSOが登場した。

「みんな!今日はKaSOの火葬場へようこそ!燃えてる?」

 

 

「「燃えてる!」」

 

 

「みんな!アゲアゲ??」

 

 

「「アゲアゲ!!」」

 

 

R.I.P.(アゲアゲで燃え尽きろ!)」

 

 

「「バーン!!」」

 

 

「…専用コールあるならあのオタドラに聞いておけばよかった。オタク失格だ。」

ほとんどがライブ初参戦の荼毘メンであるのに、彼らは息ぴったりの掛け合いコールをしていた。

KaSOが歌い始めると、会場は火に包まれた。

「なるほど…これがKaSOの火葬場…」

荼毘メン…そうか私たちはこれから荼毘に付すのだ。その実感が湧いてきた。

 

 

 

 

 

 

「おのれぇ!VICE許さんぞォ!!!」

なんだか英雄機関の乱入者もいたようだが撃退され、ライブは順調に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

ライブ終了

「What's?!火がこっちに来なかったぞ!」

「丸焦げになったけど、どうせオレの体再生するんだよなあ…チクショウ!」

「思ったより耐火ポーションの効果あったわ…!魔法使い達にクレームね」

3人は死ねなかった。めでたしめでたし。

 

ちなみに観客も死ねなかった。サナはこれでもKR団員だから観客の飲み物に耐火ポーションを混入させ、VICEの目論見を破ったのだ。あの量のペットボトルに、どうやってポーションを混入させたのかはサナのみぞ知る。

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「F●ck!めでたいわけないだろ!」

「3人だけで死のうと思ったの。一般人が死ぬのは見過ごせなかった…ごめん荼毘メンの人達。」

「KaSO様~!!!また死ねませんでした!!」

 

 

「私のライブで死者ゼロ…?!そんな!!」

それはKaSOのライブ史上初めての出来事だったそうだ。

 

 

もちろん帰宅した3人はKaSOのライブに参戦した話をしたら、こっぴどく叱られたのであった。

 

EnD

 

 

 

 

 

 

登場人物紹介

 

 

オマケ(後日追記)