windowの図書館外伝

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EP:PARALLEL Might makes Right 序

 

 

VICEに加入してはやひと月、だいぶ仕事にも慣れたつもりだ。今日も今日とで警備の仕事。

 

 

 

ふとウスイは人気の少ない空間に足を進めた。何となく嫌な気がする…こういう時に働く俺の勘が外れたことはない。

 

竜人の少女が青肌の魔族の男に手を引かれていた。彼女らは同じVICEの仲間のはずだが?何やら言い合いをしている。

 

「嫌っ!誰か助けて!」

 

センスオーラ…俺の能力を使えば楽に彼女を助けることができるだろう。自身の気配を完全に消して、彼女の手を取り奴から距離をとる、とても容易い事だ。

 

「ここまで来れば大丈夫。お嬢さんあっちの道の」

 

 

突然殴られた痛みが走る、視界が暗転した。

なにか怒号が聞こえる…そのまま身体が引きづられる…何も抵抗出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あレ?意識をたもてない…熱い…視界がぐるぐるまわってて おれ いまなにしてるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!大丈夫か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

…知らない部屋、シラナイベットだ。

「…おっ!あんちゃんやっと目ぇ覚めたか!」

酷く頭が痛い…いや頭だけじゃない、カラダも?

「…そりゃ兄貴にやられちまったんだから仕方ねえよ。」

視界がやっと晴れてきた…話しかけてきた相手は金髪で青肌の魔族。

「あんたは……っ!?」

「落ち着けあんちゃん!オレはあいつじゃねえよ!あーよく見ろ!髪の色とか違うだろ!」

…確かにアイツは銀髪だった。

「それにオレの方がイケメンだ!」

…そうかな?そうかもしれない。

「あー落ち着いたか?あんちゃん確か新入りだよな、まあ知らないから仕方ねぇ災難だったな。オレの名前はバタラド。バタラド・デリデオだ。あんちゃん名前は?」

「…ヨ…ウスイだ。ウスイ・キリヤと言う。すみません、助けていただいたのに先程はあのような態度を取ってしまって…。」

「いいってこった。まあ全部うちの兄貴がわりぃ。」

「兄貴?」

「お前を襲ったのはうちの横暴クソ兄貴!ほんっとクズ野郎なんだ。」

バタラドは兄貴の事やデリデオ家のことを語り出した。

…デリデオ家、噂には聞いていた。VICEの中では古参の魔族であり、多くのデリデオの名を持つ魔族が魔の派閥を中心に色んな派閥に所属しているとか。

 

何とか身体を起こそうとするが、全身に痛みが走った。よく見たら身体のあちこちに手当された形跡がある。それにこの朦朧とする感じ…良くない薬でも盛られたようだ。

「ウスイまだ安静にしてろ!ほんと兄貴は相手に対する扱いがなってねぇ!暴力に薬にタトゥーに…自分さえ気分がよければいいDVクソ野郎だ!」

とどのつまり俺はアイツに……。

はぁ…先が思いやられる。まだ潜入してひと月しか経っていないというのにこのザマか、情けない。…うん?ちょっと待て気になる単語が聞こえたぞ…タトゥー?

右手がやけに痛むと思って確認したら、何やらナイフの模様が刻まれている。

「嘘だろ勝手に入れられたのか!?」

「あー兄貴は気に入った部下にタトゥー入れるんだ…。」

ユースティアってタトゥー入ってても温泉入れたっけ…?場合によっては俺の趣味がひとつ消えることになりそうだ。まあいい、起きたら手がない!切断されてしまった!とかいう最悪の展開を避けられただけマシか。

右手に刻まれてしまったものを、ぼんやり眺めながらそう思った。

 

 

 

部屋のドアが空いた音がした。誰か入ってきたのだろうか?

「…あのっ!お兄さん!」

「ああ君はさっきの。」

「本っ当にごめんなさい!私の事を助けてくれたのに…私は貴方を見捨てて逃げてしまって…。」

竜人の少女はそう言って頭を下げた。

「別に気にしていない。君が無事そうでなにより。」

「そんな!貴方はアイツに…」

「気にしてないから。」

気にしていない。これは強がりでも彼女の為を思って気遣った言葉でもない…事実だ。本当にどうでもいい。

 

 

 

あの日VICEの手により無惨に死んだ彼らの方がもっともっと辛かった、痛かった、苦しかったはずだ。彼らの無念を晴らすためなら、その過程で…俺は…どうなってもいい。

 

 

「私はエナ。エナ・シュトレイズ。最近私もここに来たばかりで…」

エナと名乗る少女は、親VICE派で有名な糸使いの一族シュトレイズ家の生まれであり、その中でも分家の子らしい。隣にふわふわ浮いてるドラゴンの形をしたこの子は、彼女の能力で縫い合わせて生まれたガラクタのドラゴン、名前はガドラ。ガドラはこちらに寄ってきてぺろぺろ舐めてきた。…このまま冷めた表情をしていても彼女達が心配するばかりだ、ちょっとはっちゃけるか。

「あはは!くすぐったい!可愛いなこのドラゴン。」

「シャー!」

ウスイは笑みを浮かべ、ガドラを優しく撫でた。

「あっ!ごめんなさいこの子ったら構ってちゃんで、すぐぺろぺろ舐めてくる癖があるの!」

「いや全然構わない。可愛い子だね。」

「うわぁ可愛い!オレも撫でていい?」

先程の重い空気から一転して、三人はひたすらガドラを可愛がり、あっという間に時間が経った。

 

 

「あっ!」

「どうしたウスイ?」

「…業務の途中だった。」

大変だ仕事をすっぽかしてしまった。慌ててベットから起き上がる。

「いや待て待て待て!せめて今日一日は寝てないと!」

「皆勤賞を狙っているから。」

「VICEに皆勤賞とかあるの?」

「オレ不真面目だから知らねぇや…てかそんなこと言ってる場合か!皆勤賞は諦めろ!」

「シャー!」

「だが引き継ぎができていない。業務を休むなら代わりも探さないと。」

「真面目ちゃんか!」

傷の痛みと薬物の副作用でフラフラになりながらも歩き出すウスイ。なんとか引き留めようとするバタラドとエナとついでにガドラ。

三人プラス一匹は結局ウスイの仕事の持ち場までワイワイ騒ぎながら向かい、すっぽかした謝罪と引き継ぎを行ったのであった。

 

 

続く